(少し内容に触れて居ます)　　活動（映画）屋クズレの十三（岸田森）はヤクザの資金源となるブルーフィルムの監督だが、彼の映画への熱意は枯れて居ない。　今日も妊娠の初期症状で気が載らない主演女優のメイ子（芹明香）をなだめすかしながらフィルムを回す日々。　ある日、副業のエロテープ用の盗聴素材から、歯医者と患者女性の不倫現場を見つけ出した十三は欣喜雀躍。　女性「幾代（谷ナオミ）」は以前から十三が待合室で眼に付けていたフェロモンたっぷりの和服美人で、金満老人の御妾さんだったのだ。　この日から十三の自作へ幾代を出演させる為のあらゆる手練手管を使っての籠絡作戦が始まる。　本コミュニティのレビューを拝見し購入。ファナティックな悪役や吸血鬼からユーモラスなインテリまで演じ、彼が出る事でどんな作品でも一度は観ようと思わせる、数少ない役者の一人、岸田森。　彼の怪演が拝める傑作です。　幽鬼の様に痩せた十三が色白で豊満な幾代に絡むシーンは、岸田の鬼気迫る滑稽さと、当時美しさの全盛期だったSMの女王、谷ナオミの強烈なフェロモンとがぶつかり合い、異様な迫力を醸し出しています。　実はこの度、初めて正面から谷ナオミさんを拝見致しましたが、とてもお美しいです。　この映画の滅茶苦茶さ、悲惨な筈の精神的サドマゾの関係が彼女のお蔭で性的ファンタジーとして観客にストレス無く受け入れさせるのが凄いと思いました。　少し冷静に考えると、十三は娑婆と刑務所の塀の上を歩いているが如きとんでもない輩ですが、本作の中では異様な魅力を発しています。　怪しげな関西弁で、意識的にオーバーアクト気味の岸田森に比べ、メイ子（芹明香「（秘）色情めす市場」）や撮影スタッフの「安さん、石やん（高橋明、庄司三郎）等の登場人物達の持つリアリティ、時代性も強い印象を与えます。　今は亡きポルノメディアの「ブルーフィルム」や「エロテープ」もそのアナログな製作過程と、観る者に現在より想像力を強いる素材に郷愁すら感じます。　鬼才神代辰巳監督による衒いタップリの演出、唐突でシュールなユーモア（あの結婚行進曲のシーン…）、殆どゲリラ的な手持ちカメラによる撮影（道行く　人は脚を引き摺りながら歩く岸田森をガン見している）、そしてダウンタウンブギウギバンド、奥村チヨ以下昭和歌謡を用いたBGMも強烈。　現行の法律に基づいて、18歳未満の方には残念ながらお薦め出来ませんが、映画内映画物、何かを作る事に憑かれた人物を描いた強烈なサタイヤをご覧になりたい方、谷ナオミ、岸田森、芹明香ファンの方には大いにお薦めです。　本DVDは廉価版でチャプターメニュー以外は特典無し。　映像・音声は時代と素材を考えれば充分な美しさでした。